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令和4年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業 課題解決型廃炉研究プログラム 選定課題

■課題解決型廃炉研究プログラム:合計6課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 革新的アルファダスト撮像装置と高線量率場モニタの実用化とその応用 黒澤 俊介
[東北大学]
三菱電機株式会社、京都大学、日本原子力研究開発機構 アルファダストの形状や核種を同定するために、数マイクロメートル程度のダストでも判別できるような撮像およびエネルギー分別を行う放射線顕微鏡の開発を行う。また、赤色・近赤外発光シンチレータを用いて、1F炉内、10mSv/h未満から1kSv/h 程度以上までの幅広い線量ダイナミックレンジに対応できる高線量率場モニタの開発を行う。以上の放射線顕微鏡と高線量率場モニタの2つの検出器では、既開発のヨウ化物に加え、安定性の高い硫化物など新たなシンチレータ材料の開発も進める。また、これらの発光体材料を用いて、放射線で発電する放射線電池などへの応用も検討する。
2 3次元線量拡散予測法の確立とγ線透過率差を利用した構造体内調査法の開発 谷森 達
[京都大学]
福島SiC応用技研株式会社、日本原子力研究開発機構 世界初の銀河拡散ガンマ線の直接観測に成功した電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)は、核ガンマ線の方向を完全に決定、光学カメラと同じ全単射によるガンマ線画像(線形画像) が測定できる画期的なコンプトンカメラである。前事業において、1F免振重要棟から炉を含む1km四方を一度に撮像し、空からはスカイシャイン、炉からは662keVガンマ線が明瞭に測定でき、見晴台50μSv/hでも撮像に成功した。令和3年度には京大複合研原子炉で、動作中の原子炉からのガンマ線の3次元撮像に成功し、微量な41Ar(1290keV)の炉壁からの放射も捉え、若干の時間遅れがあるものの、放射性物質拡散の画像モニタリングが可能であることを実証した。これらの成果に基づき、サブmSv/h環境での3次元汚染物質飛散検知・予測システムの実用版、およびETCCのMeV以上のガンマ線撮像能力を生かし137Csと134Cs ガンマ線を利用した、シールドプラグの各層のCs分布測定法などを開発する。さらには、1.5MeV以上のデブリガンマ線の炉壁透過ガンマ線測定による、デブリの分布把握の可能性も検討する。
3 α汚染可視化ハンドフットクロスモニタの要素技術開発 樋口 幹雄
[北海道大学]
産業技術総合研究所、日本原子力研究開発機構 規模を拡大したデブリ取出しなどにより、今後福島第一原子力発電所で問題となると考えられる作業者のα汚染に対して合理的対応を可能とするα汚染可視化ハンドフットクロスモニタの要素技術を開発する。従来のハンドフットクロスモニタは単純な放射線検出のみで、安全管理上重要なデブリ起因のα線放出核種とラドン子孫核種の識別や汚染部位の正確な把握が出来ないため、次段の鼻スミア試験で 1Bq以上のα線放射能が検出されるとキレート剤投与が行われ大きな業務負荷となる。本事業では汚染箇所・範囲、α線、β線放出核種の可視化、さらにα線放出核種の種別判定を可能とする装置の要素技術を開発し、将来的に内部被ばくの有無の判断にかかわる作業を大幅に軽減・迅速化し、作業者の安全・安心確保に貢献する。特にクロスモニタとして開発するα・β汚染分布・エネルギー計測可搬型ホスウィッチ検出器は、α線とβ線を識別して同時に計測可能であり、その効果は大きいと考えている課題である。
4 高放射線耐性の低照度用太陽電池を利用した放射線場マッピング観測システム開発 奥野 泰希
[京都大学]
木更津工業高等専門学校、産業技術総合研究所、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、東北大学、量子科学技術研究開発機構 福島第一原子力発電所の廃炉を効率的に進めるためには、原子炉格納容器(PCV)内での構造物移動に伴い、大幅な放射線環境の変化や再臨界事故が生じることが懸念されている。そのため、PCV内の放射線源および線量率の分布を知り、適切な除染や放射線遮蔽措置を行って、作業者の安全性を確保するとともに、廃炉に使用する装置の運用を最適化する必要がある。しかし、PCV内での線量測定は、電源不足、難アクセスおよび高レベル放射線環境における長期間運用など、従来の線量計では運用上の制限が大きいため、全体の放射線状況を監視できるようなシステムの構築が困難であった。本研究は、自立・遠隔で駆動する太陽電池を放射線センサに応用したシステムを開発し、PCV内の放射線情報を網羅的かつリアルタイムで取得して、実環境に実装するための実証研究を行う課題である。
5 障害物等による劣悪環境下でも通信可能なパッシブ無線通信方式の開発 新井 宏之
[横浜国立大学]
新潟大学、名古屋工業大学 原子炉建屋内および原子炉格納容器の内部など、コンクリート壁等の障害物が乱立する見通しの悪い空間において、センサの放射線量データ等を無線で収集し、センサの位置情報を複数のアンテナを用いて特定できるシステムを開発する。基地局から送信される電波の一部をセンサ用の電源電力に変換し、残りの電力を異なる周波数の電波に変換したうえで、センサが取得した放射線量等のデータを基地局に対して送り返すことができるノードを開発する。基地局としては、無線電力伝送に必要な大電力を出力できる送信系と、信号処理技術による到来方向の推定が可能なアレーアンテナを用いた受信系を開発する。また原子炉格納容器内部など、電磁波の反射が激しい空間内でもセンサの位置と線量データを取得する技術を開発する。なお、センサノードと基地局間の通信には、ノイズ以下の信号強度でも通信可能な変調方式を導入する。これにより、原子力圧力容器内を含む原子炉建屋内全体のシームレスな無線通信環境の構築が可能になることを目指す課題である。
6 無線UWBとカメラ画像分析を組合せたリアルタイム3D位置測位・組込システムの開発・評価 松下 光次郎
[岐阜大学]
東京大学、LocationMind株式会社、福島工業高等専門学校、名古屋大学、日本原子力研究開発機構 今後、福島第一原子力発電所原子炉建屋内では、線量計の精度が約10cm程度であるため、10cm精度未満での簡易リアルタイム3D位置測位システムの実装が望ましい。一方、リアルタイム位置測位技術として、『無線 UWB(Ultra Width Band)』と『複数カメラ物体認識(深層学習とフォトグラメトリ/光学式モーションキャプチャ)』の2種類の最新技術が普及し始めており有望といえる。そこでこれら2つの技術を組合せ、原子炉建屋内に設置でき、安定にリアルタイム位置測位可能な組込システムの実現を目指す。なお、建屋内は悪通信環境と想定されるため、先行研究で開発したJAXAの衛星内通信のための電磁波吸収材料を使用し、無線通信安定化を図る。最終的にシステムを統合した組込装置を開発し、原子炉建屋を想定したコンクリートで覆われた閉空間で性能評価を行う。