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令和2年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業 課題解決型廃炉研究プログラム 選定課題

■課題解決型廃炉研究プログラム:合計8課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
若手研究:2課題
1 燃料デブリにおける特性の経年変化と環境劣化割れの調査 村上 健太
[東京大学]
長岡技術科学大学 1Fの事故後、燃料デブリは高温、腐食環境下に曝されており、材料中には酸化物や水素化物等の脆性相の形成が生じ、(特性の)経年変化ないし環境劣化割が生じ得うる。本提案では、燃料デブリの環境劣化効果に依存した材料の破壊を研究対象とし、酸化や水素吸収によるデブリでの特性変化、さらに、この加速割れに関する系統的な調査を通し、微細組織と割れとの相関を明らかにする。1F燃料デブリの取出し、長期の保管・処理、経年劣化などのプロジェクトに貢献する。
2 健全性崩壊をもたらす微生物による視認不可腐食の分子生物・電気化学的診断及び抑制技術の開発 岡本 章玄
[物質・材料研究機構]
海洋研究開発機構、電力中央研究所、日本原子力研究開発機構 微生物鉄腐食は暗所や視認不可な場所で最大数十mm/年で進行し、突発的な石油パイプラインの破損を引き起こすなど、甚大な事故の原因となっている。1Fタンクにおいても、昨年秋に環境中から混入した腐食細菌に由来する硫化水素の発生が確認されたことから、健全性崩壊の新たなリスクとして懸念される。しかし、世界的にも微生物腐食のリスクは未だ把握されておらず、これを制御する技術は確立していない。本研究では、申請者らが明らかにした鍵酵素や腐食機構の新知見に基づき、加速検査試験片、オンサイト遺伝子検査などの革新的な診断技術を開発する。さらに、1Fで想定される微生物腐食の発生・進行条件の洗い出しを行い、水質や環境コントロールによって微生物腐食を防ぐ方法を提案する。また、材料・微生物・電気化学を基盤とした研究拠点を発展的に形成し、現場技術者が使用可能な技術の開発、さらには高い学際性を持つリーダー人材の育成を目指す。
一般研究:6課題
1 遮蔽不要な臨界近接監視システム用ダイヤモンド中性子検出器の要素技術開発 田中 真伸
[高エネルギー加速器研究機構]
北海道大学、産業技術総合研究所、名古屋大学、日本原子力研究開発機構 デブリ取り出しの初期段階で特に必要とされる遮蔽不要な臨界近接監視システム用中性子検出器の要素技術を開発する。実機は2025年度以降に必要とされ、最大1kGy/hの高γ線環境下で数cps/nvの高い中性子検出感度が要求される。狭隘なペネトレーションを通して原子炉格納容器内に挿入するため重量制限が非常に厳しく、対応可能な臨界近接監視モニタは現在存在しない。本研究ではこの問題を解決するために、実機で直に使える生産性と実現可能性を考慮したダイヤモンド中性子検出素子とKEK-B-factory等の国際共同実験における耐放射線性多チャンネル検出器の開発で培われた耐放射線性集積回路技術を応用・発展させた信号処理・データ転送用集積回路使用し、炉雑音解析法からの要請に合わせ設計したシステムの計測要素を試作し、最大1kGy/hのγ線環境下での微弱中性子検出を実証する。実機開発に必要なデータを取得すると共に、実機の使用を想定した臨界近接評価手法の検討も行う。
2 α/β/γ線ラジオリシス影響下における格納容器系統内広域防食の実現:ナノバブルを用いた新規防食技術の開発 渡邉 豊
[東北大学]
量子科学技術研究開発機構、物質・材料研究機構、日本原子力研究開発機構 デブリ取り出し工程において、既設のPCVならびに新設の負圧維持系設備・配管など重要な閉じ込め機能を担保する鋼構造物の長期信頼性を確保するため、α線放出核種/β線放出核種と鋼材が接触共存する濡れ環境における腐食現象を初めて明らかにして腐食速度を予測する技術を構築するとともに、PCV等への基本的な適用性に優れ、かつ、副次影響の無い新規防食技術を開発する。具体的には、①α線/β線/γ線の影響を網羅したラジオリシス解析モデルの構築、②α線放出核種/β線放出核種を用いた電気化学試験(ホット試験)と系統的な腐食予測・検証試験(コールド模擬試験)によるデータベースの構築、③それらに基づいてPCVに附設/挿入する新設設備の材料選定指針の提示、④不活性ガスナノバブルを用いた系統内広域防食技術の開発を遂行する。
3 β、γ、X線同時解析による迅速・高感度放射性核種分析法の開発 篠原 宏文
[日本分析センター]
新潟大学、九州大学、大成建設株式会社、量子科学技術研究開発機構、日本原子力研究開発機構 放射性廃棄物および燃料デブリ中分析対象核種78種の分析は、現在化学処理により峻別分離を行った後に、放射能分析を行い、定量しているが、液体シンチレーション検出器によるβ線、X線、α線とGe,NaI検出器等によるγ線の測定スペクトルは核種毎に異なる応答を示し、測定スペクトルはその線形重ね合わせで表せるという第1原理に基づき、これらのスペクトルデータを同時に統一的に解析するスペクトル解読法(Spectral Decryption Method)を開発する。これにより、核種分析能を大幅に改善し、峻別化学分離を不要とすることで、化学処理プロセスを大幅に軽減することを目指す。
4 合理的な処分のための実機環境を考慮した汚染鉄筋コンクリート長期状態変化の定量評価 丸山 一平
[東京大学]
国立環境研究所、株式会社太平洋コンサルタント、太平洋セメント株式会社、名古屋大学、北海道大学、日本原子力研究開発機構 これまでに実施してきた「放射性物質によるコンクリート汚染の機構解明と汚染分布推定に関する研究(H29~R1年度英知事業)」で得たセメント系材料における放射性核種(以下、単に核種)の浸透・収着挙動に関する基礎的な知見と、本書で提案する、実際の鉄筋コンクリート部材の状態を考慮した放射性核種の長期的な浸透・溶出挙動の解明により、汚染鉄筋コンクリートの除染・処理・処分等を行う際の基盤資料に必要なコンクリート部材の物量を、汚染濃度別に定量的に予測する。
定量的物量予測に向けて、本研究では、①核種の長期挙動シミュレーションに向けたひび割れ幅・深さと密度を含むコンクリート部材の状態設定(評価対象)、②部材の状態を考慮した核種の浸透挙動解析手法の開発(浸透実験に基づく数値解析モデル化)、③実際の核種の種類・濃度(境界条件)を考慮した収着/浸透挙動評価、④処理・処分を見据えたコンクリート廃棄物の状態検討(例えば、高濃度汚染の位置、深さ、除染による汚染の再移動の可能性、等)を行う。これらの研究により、現実のコンクリート部材の汚染状況の推定情報が提示される。この汚染状況の推定情報に基づき、部材別・汚染濃度別に分類し物量を定量的に予測することで、合理的な建屋内除染、建屋の解体作業および廃棄物の処理・処分計画が策定でき、最終的な廃棄物発生量を抑制できる。また、汚染の現実と、核種移行とセメント・コンクリート材料科学の最先端知見を融合させた研究の遂行により、実際の長期的廃炉業務に貢献できる研究者を育成する。
5 溶脱による変質を考慮した汚染コンクリート廃棄物の合理的処理・処分の検討 小崎 完
[北海道大学]
福井大学、電力中央研究所、日本原子力研究開発機構 福島第一原子力発電所の廃炉で大量に生じる放射性コンクリート廃棄物のうち、その発生物量が解体戦略によって大きく増減するのは、汚染水と接触しているタービン建屋の地下構造物のコンクリートである。そこで、本研究では、汚染水との接触で変質したコンクリート材料の特性評価ならびにそこでの放射性核種の移行挙動を、最先端分析法および収着・拡散実験等から明らかにする。この結果に基づき、放射性廃棄物の物量推計を可能とする複数の放射性核種に対応した移行モデルを構築する。また、モルタルで充填した廃棄体の性状に及ぼす変質の影響を検討する。さらに、発生するコンクリート廃棄物の分別基準を含む管理シナリオ分析として、建屋構造物の解体から処分(又は貯蔵)までの複数のシナリオを設定し、それぞれのシナリオにおける放射性廃棄物量や発生タイミングを推計するとともに、潜在的放射線リスクを算出して1Fサイトの放射線安全に係る変遷を評価する。
6 マイクロ波重畳LIBSによるデブリ組成計測の高度化と同位体の直接計測への挑戦 池田 裕二
[アイラボ株式会社]
日本原子力研究開発機構 デブリの遠隔組成計測にLIBSが想定されている。しかし、放射線等の影響で光ファイバでの損失、レーザ伝送出力の低下、デブリの性状の影響などにより、想定外の信号強度の低下が予想される。また、一般的には同位体計測にはそぐわない。そこで本提案では、マイクロ波をLIBSの測定点にアンテナを用いて重畳することで、信号強度の大幅な増倍とSN比の改善を狙うと同時に、従来困難であった超高分解能分光器による同位体計測に挑戦するものである。すでに、従来研究によりAl,Pbにおいては約1000倍の信号強度の向上が図れている。提案の要となるマイクロ波源は、半導体化することで軽量コンパクトなシステム化を実現する。これにより、遠隔計測においても、発振源を現場近くに配置して伝送ロスを軽減し着実なLIBS信号取得が可能となる。信号強度の増倍とSN比の向上を図ることにより、デブリの組成その場計測における、ウランなどの核物質の計測に貢献できる。%未満の計測も視野に入る。さらに、LIBS発光強度の向上で今まで実現が困難だったウランの同位体のその場計測の実現性についても検証する。LIBSは物質の表面での計測であるが、その場計測では迅速なスクリーニングとして廃炉に貢献することができる。さらに、簡易計測用としては、1台のコストとして500万円以下のシステムを実現する。