原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

先進複合材コンパクト中間熱交換器の技術開発

(受託者)国立大学法人京都大学
(研究代表者)小西哲之 エネルギー理工学研究所 教授
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究開発期間)平成17年度〜21年度

1.研究開発の背景とねらい
図1
図1 高温ガス炉間接サイクル発電システム

 本事業は、先進セラミック複合材を用いて、900℃超域まで使用可能なコンパクト中間熱交換器を開発することを目的として平成17年度から5か年度にわたって実施し、所期の目的を達成して22年3月に完了した。その結果として、高温で大きな圧力差に耐え、放射性物質の透過漏えいを抑えながらヘリウムをはじめとして多様な熱媒体の間で熱交換を可能とする装置の技術基盤が確立された。革新的な原子力技術は従来の軽水炉を上回る高温が得られるため高効率の熱利用が原理的に可能であり、高温ガス炉では900℃以上の高温の熱を一次冷却材として取り出す。この高温の熱を一般工業技術を用いて安価かつ安全に発電に利用するためには、原子炉環境から切り離し、放射能汚染の恐れの少ない熱媒体を得ることが必要である。原子炉一次冷却材は、炉心燃料から透過してくる核分裂生成物、特にトリチウムにより汚染するため、中間熱交換器を用いて、タービンを駆動するなどの機能をもつ二次冷却材を汚染せずに熱を移す。この熱交換器は小さな容積で大きな熱移送量を持つと同時に、それぞれの媒体間の圧力差に耐える強度を持ち、高い機密性を持つことが必要である。700℃を超える温度領域に使用できる原子力用熱交換器は、これまで存在しなかった。既存材料では、ステンレス鋼の使用温度範囲を上回るニッケル基耐熱合金で製造しても、一次冷却材に含まれる放射性のトリチウムの透過の防止は困難である。また二次側との間の大きな圧力差に耐える高温強度、特に耐クリープ性は材料本来の問題であり、解決はきわめて困難である。このため従来の高温ガス炉発電は、原子炉の冷却に用いた高圧のヘリウムガスを直接用いてタービンを駆動する形式以外はほとんど考えられていない。
 本事業では先進セラミック複合材を用いてコンパクト熱交換器を開発した。SiCセラミックは高温強度に優れ、トリチウム透過性も低いため、金属材料では困難な900℃超の高温域で使用できる。さらに先進複合材技術を用いて、セラミック素子の持つ欠点を克服し、複雑構造により比較的小さな寸法で大きな熱交換面積を持つ、高気密、高耐圧のコンパクト熱交換器の製造と性能試験に成功した。図1に、本事業で開発した熱交換器を用いた革新的原子力システムである、高温ガス炉間接サイクル発電システムを示す。二次ヘリウムはタービンを駆動し、さらに廃熱を環境に排出するが、ここが原子炉環境でなく放射性汚染の危険が少なければ、システム全体の安全性が向上し、また安価で比較的品質管理の容易な一般工業技術が利用可能となる。SiCセラミック複合材は大きな耐食性をもつため、高温ヘリウムに含まれる酸素や水蒸気による腐食の問題が軽減され、さらに二次流体に液体金属、超臨界水、超臨界炭酸ガス等の異なる熱媒体の使用も考えられる。このため高温ガス炉に対しては、低トリチウム汚染で圧力的に独立した二次He系ばかりでなく超臨界水蒸気や超臨界炭酸ガスタービンなどの高熱効率システムの適用も可能となる。また耐食性が確認されれば、他の冷却材を使用する先進炉への適用も考えられる。このように本事業は高温ガス炉等革新的原子力システムの熱交換器を開発し、安全性、経済性を著しく向上する共通基盤技術を創出することを目的とした。

2.研究開発成果
(1)研究開発の構成
図2
図2 本研究開発の課題とスケジュール

 本事業は平成17年度から5年間の計画で実施した。プロジェクトのスケジュールと研究開発タスクの関係を図2に示す。このプロジェクトは先進セラミック複合材技術を用いて中間熱交換器の技術基盤を確立することを目標とし、小型のプロトタイプ器を試作し、その性能を評価するとともに製造技術、使用技術を確立し、一方、設計とシステム解析を行った。
 研究開発テーマは、1)先進セラミック複合材による熱交換器の材料及び製作技術の開発、供用中の健全性試験および小規模補修技術の開発、2)熱交換器の基本特性の評価として、熱的特性、気密度・トリチウム透過特性、冷却材との共存性などの測定と、総合機能実証試験、3)得られた特性から、原子力システムに本技術成果を適用したときの効果をシステム設計による評価、の3分野で展開した。これらの成果を相互に反映して、材料、熱交換器構造および原子炉システムのそれぞれを相互に整合し、高温用熱交換器としての総合的な技術基盤を確立した。供用中検査技術に関しては、18,19年度に三菱重工(株)に再委託を行ったが、20年度以降は京都大学が実施した。

(2)製造技術開発とスケールモデル
図3
図3 熱交換器構造の組み立て

 本事業で開発した熱交換器の主要材料は、SiC繊維でSiCセラミックを強化した複合材である。特に、京都大学で開発されたNITE法(nano-infiltration and transient eutectic phase process)を用いた接合法により、高強度、高気密度で複雑形状を持つ熱交換器の製造が可能となった。まず、材料の最適化を行い、繊維径、繊維表面の炭素被覆、焼結助剤、焼結温度などを決定した。得られた材料の強度は、引っ張り試験では平均強度約140MPa、また熱伝導度は1000℃で22.8 W/m・Kである。これはオーステナイト鋼より大きく、熱交換性能を支配する熱交換器表面と熱媒体との間の熱伝達と比べ十分大きな値である。
 熱交換器の構造は、当初は板材に溝加工をしたものを積層して接着して構成していたが、最終的には図3に示すように、板材の間に流路を構成するピンをはめ込み、NITE法により接合することで製作する方法を開発した。また接合には図4に示す高粘度スラリーシートを用いる方法を開発した。温度履歴と接合部組織も図に示す。これらは歩留りが高く、実用規模装置にスケーリングの期待できる製造法である。
 図5に示すように、さらに溝加工によるパイプの接合と、フランジを接合してスケールモデルが得られた。

図4
図4 高粘度スラリーシートによる接合
図5
図5 フランジ付熱交換器スケールモデル
(3)性能評価試験
図6
図6 ループとスケールモデル試験
図7
図7 熱交換器の数値解析
図8
図8 熱交換器入口温度と熱交換量

 プレートフィン型熱交換器スケールモデルの伝熱性能評価の実験は、本事業で整備した液体―気体2重の試験ループによって実施した。このループは、一次側を高熱容量の液体金属として900℃以上の熱を供給し、2次側にヘリウムを循環して熱移送特性の評価を行う。図6に試験の状況を示す。真空にして熱損失を防ぐ試験体収納容器内に、横向きにしたスケールモデルを設置し、高温では輻射による損失が顕著となるため輻射シールドを施し、各流体の熱収支から、交換熱量Qhより熱通過率Kと伝熱面積Aの積であるKA=Q/ΔTmを評価した。熱交換量は流体のレイノルズ数の関数として得られ、設計基礎データが得られた。
 実験では各流体の入口出口温度しか測定できないので、熱伝達特性の評価には数値シミュレーションを行った。図7に示すようにスケールモデルの流路をモデル化し、熱交換器内部の温度分布を計算して、実測とあわせることで熱交換能力を評価した。図8にループ試験で得られた熱交換器の性能を示す。交換量は温度差に依存し、900℃以上で約1.5キロワット以上がえられ、高温における熱交換性能の実証に成功した。また数値解析と合わせて設計基礎データが得られた。この成果は、本事業の目的である高温用の熱交換器が開発され、そのスケールアップのための技術基盤が得られたことを示す。
 熱交換器の重要な性能としてトリチウム透過性を評価した。複雑な透過経路を解明し、材料を構成する繊維、粉末、焼結助剤などの寄与を明らかにし、組成の調整で透過特性を制御しうること、高温ガス炉で想定されるトリチウム分圧では透過が圧力の一乗に比例すること、実測したデータから、適切なトリチウム除去系の設計と組み合わせて、二次系のトリチウム濃度を一般工業規格で扱えるレベルに制御できることを示した。
 材料共存性の評価では、高温ガス炉で想定されるヘリウム環境、本試験で使用したLiPbでは1000時間、900℃で腐食が認められないことを確認した。この他に、高速増殖炉で想定される液体Na、超臨界水、超臨界炭酸ガスで初期的試験を行った結果、超臨界水で重量減少が観測されたが、ほかの媒体については大きな腐食は観測されず、両立性の確認にはさらに長期の継続観察や加速試験が必要なレベルであることがわかり、多様な媒体への適用可能性が期待できる。

(4)システム設計
図9
図9 高温ガス炉用中間熱交換器の構造と鳥瞰図

 600MW高温ガス炉用の実規模中間熱交換器を設計した。鳥瞰図を図9に示す。設計データは試作試験で確認されている。また、この熱交換器を使用した間接サイクル発電プラントの構成機器と全体を設計した。図10はプラント鳥瞰図で、またそのコスト評価の結果は図11にまとめたように4.55円/kWhとなった。競争力ある間接発電プラントが建設可能であることが確認されたが、発電コストは直接サイクルより若干高く、利点は主に二次系の安全性に求められる。

図10
図10 間接サイクル発電プラントの鳥瞰図
図11
図11 間接発電プラントのコスト評価
(5)供用中検査、修理法
図12
図12 超音波探傷と170μm人工欠陥の検出

 供用中の健全性確保のための超音波探傷の可能性を確認した。熱交換器構造で亀裂の進展が想定される部分は外部からのスキャンで微小な欠陥が検出できることを示した。また、局所加熱によるコーティングでその場で亀裂を補修できる可能性を示した。

3.今後の展望

 先進複合材を用いた高温用熱交換器の開発は所期の目的を達成した。今後は、スケールアップと実用化研究の段階となる。

4.参考文献

なし

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