原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

もんじゅ性能試験データを用いた高速炉技術に関する先端的研究

(受託者)独立行政法人 日本原子力研究開発機構
(研究代表者)宇佐美 晋 高速増殖炉研究開発センター
(再委託先)国立大学法人 福井大学、国立大学法人 大阪大学、国立大学法人 京都大学
(研究開発期間)平成20年度〜22年度

1.研究開発の背景とねらい

 高速増殖原型炉「もんじゅ」は、平成17年10月に原子力委員会により策定された「原子力政策大綱」に於いて、『原子力研究開発の推進として、革新的な技術システムを実用化候補まで発展させる研究開発の取組の最大のものとして、高速増殖炉(FBR)サイクル技術の研究開発が挙げられており、「もんじゅ」はその中核と位置付けられ、運転を早期に再開し、10年程度以内を目途に「発電プラントとしての信頼性の実証」と「運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立」という所期の目的を達成することに優先して取り組むべきである。』、とされている。これを受けて「もんじゅ」では、平成18年にナトリウム漏えい対策改造工事を終え、工事確認試験及びプラント確認試験を経て、平成22年5月には14年余振りに臨界を達成した。その後、同年7月には炉心確認試験を終了し、今後とも各種の性能試験を実施する計画である。
 一方、日本原子力学会では、以上の動向を踏まえ、学会内に「もんじゅ」研究利用特別専門委員会を設置して、「もんじゅ」性能試験において実施すべき研究テーマを既に調査している。本件は、これら高速増殖炉に係る最先端の研究テーマのうち、核特性及び熱流動特性の2つの分野の評価手法に係る研究について、関係大学が連携して研究を実施するものである。
 研究テーマとしては、まず、核特性分野に関して、従来に無い厳密な決定論的解析手法を開発し、高速炉における高精度での炉心特性予測を可能とする。また、熱流動特性分野に関しては、自然循環の性能と不確かさを定量化した上で、実機データによる確証と不確かさの評価を実施し、自然循環除熱に関する設計評価と安全評価のガイドラインを策定する。
 これらの研究の成果により、高速炉の実用化に大きく貢献すると同時に、「もんじゅ」の存在意義を再確認し、将来の更なる展望にも道を拓くことが、本事業の背景とねらいである。

2.研究開発成果
2.1 新しい全炉心非均質輸送計算手法の研究

 従来、高速増殖炉の炉物理分野では、計算機資源(メモリ、計算時間)の制約から、空間座標や中性子エネルギーを離散化し、体系を均質化近似して解析計算を実施することが広く一般に行われている。しかし、このような手法では、これらの近似に起因する解析誤差が不可避的に混入する。これを避ける手法として、現時点では、連続エネルギー・モンテカルロ法が利用されているが、同手法には統計誤差が付随する。この統計誤差は、計算ヒストリー数を増加させることで低減可能であるが、反応率分布や微少な反応度差など、炉心の局所的特性については、現行の並列計算機を利用しても十分低減することは困難である。そこで、本研究では、連続エネルギー・モンテカルロ法と同等の厳密なモデルでありながら、統計誤差のない決定論的手法(キャラクタリスティックス法)につき検討し、「もんじゅ」性能試験解析に適用して検証する。

 (1)キャラクタリスティックス法を用いた全炉心非均質輸送計算手法の整備
 キャラクタリスティックス法では、下図に示すように、先ず体系内にレイ・トレースと呼ばれる中性子飛行方向に沿ったパスラインを引く。次に、空間分割された領域内での中性子の減衰と発生を、輸送方程式に基づきパスライン上で解く。これより、パスラインの入射する領域入口の中性子束に基づき、領域出口の中性子束を計算する。これを体系内の全領域・全方向に亘って計算することで、体系内の詳細な中性子束空間分布を得る。
図2.1
図2.1 キャラクタリスティックス法による非均質輸送計算の模式図

 そこで、先ず以上の計算モデル上の領域分割の詳細さが計算結果へ及ぼす影響を評価・検討した。その結果、充分な計算精度を得るためには、単位燃料ピンセル(燃料ピンと周囲の冷却材で形成される六角領域)を12領域分割する等、ラッパ管や集合体間冷却材領域だけでなく集合体内部の冷却材領域についても詳細な領域分割が必要であることを明確にした。
 次に、この結果を反映して、「もんじゅ」と同規模の2次元平面炉心体系に対して計算を実施した。その結果、本手法により、モンテカルロ計算と同等の結果を得ることが出来ること、また、特にモンテカルロ計算で統計精度が低下する体系外周領域の低エネルギー中性子束については、むしろ本手法の方が統計的変動の無い安定した解が得られることを確認した。
 以上の結果に基づき、更に3次元体系を取扱うことのできる計算手法として、2次元平面キャラクタリスティクス法(BACHコード)と3次元輸送ノード法(NSHEXコード)の結合を図った。このシステムでは、先ずNSHEXコードで計算した実効増倍率と軸方向中性子漏洩成分をBACHコードに受渡し、詳細な中性子束空間分布を計算する。次に、その結果に基づき、各領域の均質化断面積を作成し直して、それをNSHEXコードに受け渡す。これを基にNSHEXコードで実効増倍率と軸方向中性子漏洩成分を計算し直す。これを計算が収束するまで繰り返すことで3次元の詳細最終解を得るシステムを整備した。
 次に、本手法(BACH+NSHEX計算コード・システム)を用いて、「もんじゅ」全炉心体系を対象に計算を実施した。その結果、実効増倍率や増殖比などの主要特性は、多群モンテカルロ計算コード:GMVPによる厳密解とほぼ一致したことから、手法の妥当性を確認した。
(2) モンテカルロ法による既往の「もんじゅ」性能試験の解析及びキャラクタリスティックス法の並列計算化検討
 本手法の検証に資するため、「もんじゅ」性能試験のうち、過剰反応度、制御棒価値、及び等温温度係数につき、連続エネルギーモンテカルロ計算による厳密解を求めた。また、並列計算によるキャラクタリスティックス法高速化のためのアルゴリズムを検討し、並列化により計算効率が向上する可能性を明らかにした。
(3) キャラクタリスティクス法における共鳴の取り扱いに関する検討
 本手法にて非均質共鳴自己遮蔽効果を厳密に取扱うため、サブグループ法、自己遮蔽因子テーブル法、超微細群法につき適用方法を検討した。検討の結果、共鳴自己遮蔽に対する2次元非均質効果の直接的な取り扱いと、複数核種間の共鳴干渉効果の取り扱いを同時に満足し、かつ、ナトリウムボイド反応度など、中性子スペクトルの変化に敏感な核特性の評価精度を満足するためには、超微細群法が最も有望な手法である、との結論を得た。
2.2 自然循環に関するガイドラインの整備

 原子炉システム及び熱輸送系の自然循環による除熱能力を実証することは、次世代炉の重要な設計概念に於いて、受動的安全特性を積極的に活用するにあたり大きな意義がある。しかしながら、自然循環特性については、模擬物質として水を用いた試験は複数実施されているが、ナトリウムを用いた試験例は僅少である。水を用いた試験では、熱伝導度がおよそ100倍も異なり、自然循環特性における流体混合と熱伝導による影響を正確に模擬できない。一方、ナトリウムを用いた試験は、小スケールの試験が多いために実機への外挿性において大きな問題がある。また、小規模なループにおいては、その容積に比べて表面積が相対的に大きくなるため、試験装置表面からの熱損失が大きくなり、これも誤差の原因となり得る。
 このような理由から、実機における自然循環のデータは、高速増殖炉の受動的安全性の確証という観点から次世代炉の開発に於いて不可欠である。自然循環試験では、流動特性と温度分布及び流路の形状が密接に関連するため、性能試験のスケジュールに合せ、基礎的なデータを体系的に蓄積するとともに、それを用いた解析手法の整備・検証が必要である。

(1) 自然循環解析技術と評価の不確定性及び精度分析
 本研究では、先ず自然循環の解析技術の現状と、既存の自然循環に関連する実験的知見の調査を行った。その結果、「常陽」を含め合計9基の高速炉で自然循環関連試験が行われているが、いずれも部分的な試験であり、「もんじゅ」での試験の意義が再認識された。
 次に、既往の「もんじゅ」性能試験で実施された、45%熱出力からのプラントトリップ試験を想定した予備検討を実施し、自然循環を必要十分な精度にて解析するための条件を明確にするとともに、解析コードの感度評価等を実施して、解析計算の不確実さを評価した。
 不確実さ評価では、ラテン超方格法(Latin Hypercube Sampling: LHS)およびPearsonの相関比を用いた感度評価解析を実施し、入力パラメータの不確実さが結果に及ぼす影響を定量化して、解析計算の不確実さを評価した。そのため、先ず過去の知見に基づいて入力パラメータの不確実さを推定した。なお、不確実さについては、例えば本質的に同一の汎用相関式を共用しているなど、共通因子によりパラメータ間で強い相関を有する場合が想定される。したがって、この点も考慮した上で結果への影響を評価した。
 その結果、自然循環時の2次ピーク温度に影響の大きな重要パラメータとして、逆止弁圧力損失特性、炉心崩壊熱、炉心圧力損失特性などの他に、特に共通因子として摩擦圧力損失やポンプ圧力損失などの不確実さが摘出された。これは従来知見に基づく専門家の推論とも整合しており、本手法が入力パラメータの影響度を定量的に評価するツールとして有効であることが確認できた。
 また、「もんじゅ」炉上部プレナムを対象とした多次元解析のため、メッシュ解像度の異なる2種類の入力条件を作成し、低流量時における定常解析を実施した。その結果、炉内構造物のモデル化の詳細度に応じて、炉上部プレナム内の流動状況は影響を受けること、したがって、自然循環を必要十分な精度にて解析するためには、十分詳細なメッシュ解像度で炉内構造物を適切にモデル化する必要のあることを確認した。
(2) 自然循環特性の事象同定に関する検討
 ①時間フェーズ毎の重要事象の抽出と重要度ランキング: 自然循環除熱に関する現象の重要度ランキングを構築するため、まず関連するシステムの分析を行うとともに、各システム要素に影響を及ぼす現象を摘出した。更に、原子炉トリップからフローコーストダウンに至るまでの短期挙動(1次温度ピーク)、強制循環から自然循環に移行する中期挙動(2次温度ピーク)、自然循環が発達した後の準定常的な長期挙動(3次温度ピーク)に着目し、それぞれの時間フェーズ毎に同様の分析を行って、重要現象を特定し、リストを作成した。
 次に、抽出した現象の重要度を判断するための指標(Figure-of- Merit: FoM)の選択につき検討を実施した。その結果、原子炉の安全性確保、すなわち燃料健全性及び冷却材流路・液面(バウンダリ)確保の観点から、短時間および中時間挙動に関しては燃料被覆管の肉厚中心温度ならびに累積損傷パラメータを、長時間挙動に関しては原子炉容器出口温度ならびに累積損傷パラメータをFoMとして選定した。また、当該現象に係る実験的知見及び解析技術による分析能力を調査し、知識レベルの定量化を実施した。更に現象分析能力や知識レベルも勘案して、自然循環時の低流量における圧力損失特性等の不確かさの増大ならびにパラメータ間の相関を考慮した重要度ランク表を構築した。
 ②基礎的なデータの取得: 自然循環の特性を左右する伝熱流動現象の中で、特に液体金属の自然循環に関連するものを調査した。その結果、IHX内の熱伝達に関しては、低流量時の熱伝達率の低下が既往ナトリウム実験で確認されており、実験による流れの観察に基づく解明が必要である事が判った。
 そこで、中間熱交換器のスケールモデル試験装置を製作し、これまでのナトリウム実験に対応した水流動実験を行った。その結果、自然循環時の中間熱交換器(IHX)内流動状況は、予想に反してほぼ均一な流れとなっている事が確認された。また、この結果から、ナトリウム実験において十分には把握できなかった現象を説明するための分析に関しては、更に実験を続けて、残った可能性を実験で確認する必要がある、との結論を得た。
2.3 「もんじゅ」性能試験データの収集整理

 以上2.1項及び2.2項の研究では、「もんじゅ」性能試験で取得されるデータに基づき、手法の適用性を検証することが基本となっている。よって、核特性及び熱流動特性(自然循環)のそれぞれ該当する試験につき、取得データを適宜収集整理して、本研究の基礎として提供する。
 具体的には、前回性能試験(1994-95年)の炉物理試験で得られた過剰反応度測定(臨界性)など計12特性と、自然循環試験に試験条件が類似しているプラントトリップ時特性評価(タービントリップ)試験につき、性能試験データの収集整理を実施した。

3.今後の展望

 今後は、「もんじゅ」性能試験の進捗に合わせて、性能試験で得られる炉物理特性を全炉心非均質輸送計算により解析して手法を検証する。また、プラントトリップ試験結果に基づき、自然循環につき標準的に利用すべき実用的手法と解析条件をガイドラインとして策定する。

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