原子力システム研究開発事業

英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業>成果報告会>平成22年度成果報告会開催資料集>高速増殖炉における炉心燃料とブランケット燃料の配置最適化手法の 研究開発

平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

高速増殖炉における炉心燃料とブランケット燃料の配置最適化手法の研究開発

(受託者)国立大学法人東北大学
(研究代表者)若林利男 大学院工学研究科
(研究開発期間)平成21年度〜23年度

1.研究開発の背景とねらい
図1
図1 「もんじゅ」の取出し燃焼度分布の例

 高速増殖炉の炉心構成は、均質炉心の場合、出力分布の平坦化のために内側炉心と外側炉心の二領域として、外側炉心燃料のプルトニウム富化度を内側炉心燃料のプルトニウム富化度より高めている。それでも、特に外側炉心燃料の最外層燃料の出力が低く、それに伴い燃焼度が低くなっている。外側炉心の燃料集合体数が多いため、内側炉心及び外側炉心の各取出燃料の平均燃焼度も低くなっていた。
 「もんじゅ」の低燃焼度炉心を例にとると、炉心取出平均燃焼度に比べて、外側炉心最外層燃料の燃焼度は、25%程度低くなっている(図1参照)。
 そのため、経済性向上のために炉心取出平均燃焼度を増大させるには、外側炉心の炉心燃料の燃焼度を上げることが有効と考えられる。
 その方策の1つとして、高速増殖炉のブランケット領域の中性子の減速及び反射効果を増大させて、外側燃料の出力の増大とそれに伴い燃焼度を向上させることが考えられる。
 ブランケット燃料集合体の構成としては、従来、劣化ウランを収めたブランケット燃料要素のみで構成されていた。ブランケットの減速及び反射効果を増大させるには、ブランケット燃料集合体内に劣化ウラン要素だけでなく、減速及び反射効果が優れている物質(水素化ジルコニウム、重水素ジルコニウム等)を含む要素を適用することが有効であると考えられる。
 本研究では、「もんじゅ」を例として、減速材を導入したブランケット燃料要素の材質・構造・配置並びに炉心燃料集合体及びブランケット燃料集合体の配置・交換手法の最適化により、炉心取出平均燃焼度を向上させる手法を開発し、実用炉への適用の観点から検討することを目的としている。

2.研究開発成果
(1)ブランケット燃料要素の材質、構造、配置の検討
図2
図2 「もんじゅ」の炉心内配置例
図3
図3 ブランケット燃料集合体内の減速材要素配置
図4
図4 集合体出力ピーキング係数の減速材による効果
図5
図5 減速材要素本数と出力ピーキング係数と燃焼度向上の関係
図6
図6 中性子エネルギースペクトル

 「もんじゅ」低燃焼度炉心を対象として、ブランケット燃料集合体内の減速及び反射物質の種類と密度、燃料要素の本数及び配置、燃料交換バッチ数及び運転サイクル長をパラメータにしたパラメータサーベイを炉心解析用モンテカルロコードMVPを用いて実施した。そして、これらのパラメータが、炉心燃料及びブランケット燃料の燃焼度、増殖比、出力ピーキング係数等の主要炉心特性に与える影響を明らかにした。対象炉心は、「もんじゅ」低燃焼度炉心(4バッチ交換123日燃焼)とした。「もんじゅ」の炉心内配置モデルを図2に示す。また、MVP解析における径ブランケット第1層に減速材を有するブランケット集合体を装荷した場合のモデルを図3に示す。

1)減速材物質の効果
 減速材物質を変えた場合の集合体ピーキング係数を図4に示す。減速材を配置することで、外側炉心の外側に出力増大が生じることが分かる。これより、例えば、運転サイクル長を伸ばし、ピーク燃焼度を増大することなく取出平均燃焼度を向上することが可能となる。
 減速材物質の種類を変えた場合については、水素化物減速材及び重水素減速材(ZrD1.6をZrD1.6と示す)要素を配置した場合が、他の減速材(SiC、Be等)に比べて、出力ピーキング係数が低下し、炉心取出平均燃焼度が向上できることが分かった。一方、増殖比は、重水素減速材では大きな影響がないことから、出力ピーキング係数の低減を図り、炉心取出平均燃焼度を向上させるには、重水素減速材要素が望ましいことが分かった。

2)減速材要素本数、配置の効果
 ZrD1.6減速材要素本数を変えた場合の出力ピーキング係数と炉心取出平均燃焼度向上効果(%表示)を図5に示す。
 減速材要素本数と要素配置の変化による出力ピーキング係数、燃焼度、増殖比に与える影響としては以下のことが言える。
 減速材要素本数の増加に伴い、出力ピーキング係数が低減し、燃焼度が増加する。また、外側炉心第2層のピーク出力は増大する。9本、18本、61本(ブランケット集合体内の全てが減速材要素で構成)の場合は、減速材要素本数の増加に伴って、ほぼ、比例して燃焼度が向上することが分かった。61本の場合は、燃焼度向上効果は最大となる。ZrD1.6の場合は、外側炉心第2層燃料集合体の線出力は許容線出力内に抑えられ、燃焼度増大効果も大きく約8%となり、線出力条件を満足する範囲で、燃焼度増大効果が最大となる。
 ZrH1.6とZrD1.6の同一要素本数での比較では、61要素本数のケースでは、ZrH1.6では減速材に近接する燃料要素の出力ピークは大きくなるが、線出力制限があるために外側炉心第2層燃料の集合体全体の出力は増大できず、ZrD1.6のほうが燃焼度増大効果に対し有利な傾向にある。これは、ZrD1.6に比べ、ZrH1.6ではスペクトル軟化が局所的なためと考えられる。
 増殖比については、減速材要素本数の増加に伴い低下する。61本のZrD1.6の場合では、増殖比1.0以上を確保できるが、ZrH1.6の場合には増殖比は1.0以下となる。
 ZrD1.6とZrH1.6を混在した場合では、一般にZrD1.6が炉心燃料側に配置されれば、炉心外周部の局所出力ピークは抑えられる傾向となる。
 以上の結果から、炉心燃料に隣接する最内側ブランケット燃料集合体内に重水素減速材要素を配置した場合には、減速材要素の本数を増加することにより、出力ピーキング係数が低下し、炉心取出平均燃焼度は向上することが分かった。一方、増殖比は、重水素減速材要素の本数の増加とともに低下するが増殖性は確保できることが分かった。出力ピーキング係数の低減を図り、炉心取出平均燃焼度を向上させるには、重水素減速材要素を最内側ブランケット燃料集合体内に全数配置することが望ましいことが分かった。

3)中性子スペクトルの影響
 減速材による中性子エネルギースペクトルへの影響を調べるために、減速材無し炉心、ZrH1.6減速材炉心、ZrD1.6減速材炉心の中性子エネルギースペクトルを明らかにする必要がある。図6に、減速材なしの場合、ZrH1.6減速材を使用した場合、ZrD1.6減速材を使用した場合の中性子エネルギースペクトルを示す。
 減速材により、径ブランケット領域のみならず、炉心領域も中性子エネルギースペクトルが軟化(熱中性子の割合が多くなる)していることが分かる。水素減速材の方が重水素減速材より減速効果が大きく、熱中性子の割合が大幅に多くなっている。これよりブランケット燃料集合体に隣接する外側炉心第2層燃料集合体の外周要素の出力ピークが主としてスペクトル軟化により発生していることが分かる。ZrH1.6では特にスペクトル軟化が著しいため、ピーク出力がZrD1.6よりも増加することが分かる。

3.今後の展望

 今後の展望を以下に示す。
 炉心燃料集合体とブランケット燃料集合体の集合体配置を変更した場合及び集合体の軸方向構造を変更した場合のパラメータサーベイをモンテカルロコードMVPを用いて実施し、燃焼度、増殖比、出力ピーキング係数等の主要炉心特性に与える影響を明らかにする。更に、これらの成果に基づき、燃焼度向上の観点から最適と考えられるブランケット燃料要素の材質、構造、配置を決定する。
 3次元燃焼解析コードを用いて、上記のブランケット燃料要素の材質、構造、配置を基にしたブランケット燃料集合体と炉心燃料集合体の炉心配置、燃料交換に関するパラメータサーベイを実施し、炉心燃料及びブランケット燃料の燃焼度、出力分布等に与える影響を明らかにする。
 更に、反応度係数(ボイド反応度、燃料温度係数等)、制御棒反応度(主炉停止系、後備炉停止系)等の解析・評価を実施し、炉心特性に与える影響を明らかにする。また、ブランケット燃料集合体の最大線出力の抑制、炉心燃料集合体の局所出力ピーキングの抑制について検討する。
 これらに基づき、減速材を導入したブランケット燃料要素の材質・構造・配置並びに炉心燃料集合体及びブランケット燃料集合体の配置・交換手法の最適化により、炉心取出平均燃焼度を向上させる手法を開発し、実用炉への適用の観点から検討する。

■ 戻る ■
Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室