原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

ナトリウム冷却炉用高クロム鋼配管溶接部適正設計施工手法の開発

(受託者)国立大学法人大阪大学
(研究代表者)望月正人 大学院工学研究科 教授
(研究開発期間)平成19年度〜21年度

1.研究開発の背景とねらい

 ループ型ナトリウム冷却高速増殖炉の実用化に向けた研究開発において、冷却系構造材料として、原型炉であるもんじゅで用いられていたオーステナイト系ステンレス鋼の代わりに高クロム鋼を用いることが検討されている。この高クロム鋼の特徴は、従前のステンレス鋼に比べて高強度・低熱膨張な特性にある。すなわち、高クロム鋼を冷却系構造材料として実用化することで、冷却系構造材料の熱膨張を抑制することにより熱応力を大幅に緩和することができる。その結果、これまでは熱応力による破損を防ぐ目的で配管に多数配置されていたエルボの数を減らすことができ、配管総長を大幅に短縮することが可能となる。試算によると、材料変更により配管総長を39 mから12 mに、エルボ数を9個から1個に削減することができ、かつ、原子炉建屋を約1/4にコンパクト化できる1)-2)。さらに、こうした配管総長の短縮は、経済性の向上のみならず、とかく問題となることの多い「溶接部」を少なくすることによって信頼性の向上をも図るといったメリットをもたらす。
 しかし、高クロム鋼の実用化に向けて解決しなければならない課題として、溶接をまったく避けるという訳にもいかず、結果として、溶接を施した際の溶接熱影響部(Heat Affected Zone、以下、HAZ)における軟化現象が大きな課題となる3)-4)。これは、高クロム鋼を用いた溶接継手において、溶接HAZが軟化してしまい母材本来の静的強度が溶接継手において確保できないというものである。これまでの発電プラントの損傷事例を見ても、溶接部を起因とすることが非常に多いことからも、こうした問題を解決することは非常に重要であることが容易に理解できる。
 本事業では、ループ型のナトリウム冷却高速増殖炉の配管材料への適用が有望視されている高クロム鋼の溶接に際し、溶接継手のHAZにおける強度が低下してしまう軟化現象を適切に評価することにより、HAZでの軟化度を合理的に考慮した溶接設計施工手法を開発することを目的とし、研究開発を進めた。本報告では3年間に渡る研究開発の最終成果の概要を示す。

2.研究開発成果

(a)溶接HAZ軟化を考慮した適正溶接施工条件範囲の明確化
 まず、溶接条件を種々変化させて設定した高クロム鋼溶接継手を6体作成し、溶接条件とHAZ軟化特性の関係を定量的に把握することができた。また、精密万能試験機を用いて溶接継手の引張試験を実施することにより、HAZ近傍における軟化特性と継手強度の関係についても把握することができた。次に、フォーマスター試験により取得した連続冷却変態曲線特性線図を用いて組織変化を考慮した熱弾塑性数値解析を行うことにより、溶接熱サイクルに応じた組織変化挙動と強度特性の変化を把握することができた。この妥当性を確認するため、数値解析結果を実験結果と比較し、両者はよく一致していることを示した。すなわち、種々の溶接条件における継手HAZ近傍における軟化特性を数値シミュレーションにより予測することが可能となった。溶接HAZ軟化継手におけるビッカース硬さ分布の数値解析結果の一例を図1に示す。
 開発した数値シミュレーション手法ならびに実験による検証結果から、実施工における適正溶接施工条件範囲として、最高到達温度が880℃程度の領域において、800℃から500℃までの冷却時間 t8/5が10 s以下となることを避けるように溶接施工を実施すればよいことを明らかにした。

図1
図1 組織硬さ分布解析結果の一例
図2
図2 軟化部相対厚さと継手強度の関係

(b)溶接HAZ軟化を考慮した継手強度保障設計法の確立と破壊評価
 引張負荷を受ける高クロム鋼母材ならびに溶接継手の丸棒試験片に対して大変形弾塑性解析法を開発し、数値シミュレーションを行った。得られた解析結果を実験結果と比較することにより、その妥当性を確認することができた。
 さらに、高クロム鋼溶接継手のHAZにおける応力・ひずみ関係を、微小部での荷重変位曲線の高精度測定が可能な引張特性測定機を用いて把握することができた。また、溶接継手の静的引張強さを母材相当に保障するために、開発した大変形弾塑性応力解析手法により、HAZにおける軟化率、軟化幅、軟化分布が継手強度に与える影響を評価し、継手強度保障設計のためのデータを得ることができた。一例として、軟化部相対厚さと継手強度の関係を図2に示す。これらの結果から、継手強度予測式を導出し、溶接HAZ軟化を考慮した上での継手強度保障範囲として、表1に示す条件を提示することができた。
 さらに、万が一の場合における破損時の特性評価の基礎データとして、レーザ顕微鏡による破断面の観察および走査型プローブ顕微鏡による破断部付近の継手表面性状の観察により破壊発生時の基本データの取得を行い、継手部の破壊時における溶接条件と破面形状および表面性状の関係をデータベース的に把握することができた。

表1 溶接継手強度予測式を考慮した継手強度保証範囲
表1

(c)溶接データベースの調査
 最終的な継手特性評価時の比較検証ならびに参考データとするため、溶接施工条件に関するデータベースの文献調査を、特にHAZの冶金的および力学的特性に注目して実施した。すなわち、高クロム鋼の溶接冶金、溶接力学データについて詳細に把握、整理することにより、HAZ 軟化と溶接条件の関係について考察するために必要となる公開情報を纏めることができた。

3.今後の展望

 本事業では、ナトリウム冷却炉用高クロム鋼配管溶接部適正設計施工手法の開発を目的として,溶接HAZ 軟化を考慮した適性溶接施工条件範囲の明確化,継手強度保障設計法の確立と破壊評価、溶接データベースの調査を行い、当初目標通りの成果を達成することができた。今後、実証炉の建設に向けて、原型炉を対象とした制定済みの技術基準の全面的な改定が計画されているが、今回の研究開発成果を核として種々の機器の溶接部設計施工評価に展開することにより、関連する規格基準への取り込み、そして実機の設計・建設への貢献が期待される。

4.参考文献

1)日本原子力研究開発機構・日本原子力発電、高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究 フェーズII最終報告書 (2006).

2)M. Morishita, Key Technological Challenges for JSFR Development, ASME/JSME Workshop on Codes and Standards Supporting the Global Renaissance of Nuclear Power Generation, Kobe, Japan (2009).

3)例えば, 核燃料サイクル開発機構, 高温構造化設計高度化研究, 平成15年度共同研究報告書, JNC TY9400 2004-025 (2004).

4)M. Mochizuki, “Weld HAZ Mis-Matching Design for Joint Performances in High Chromium Steel Welded Pipe-Joint for Sodium Cooled Fast Breeder Reactor,” Proceedings of the 2010 Pressure Vessels and Piping Conference, Seattle, USA, PVP2010-25903 (2010).

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